「戦争犯罪及び人道に反する罪
に対する時効不適用に関する条約」とは
一 ニュルンベルク国際軍事裁判所規約
まず、”戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約”そのものを、よく理解しなければなりません。
この時効不適用条約の内容は、資料にあるニュルンベルク裁判の国際軍事裁判所規約が基礎となっています。
ドイツが無条件降伏した五月七日(但しソ連には五月八日降伏)のあと、一九四五年八月八日の四カ国ロンドン協定で、この裁判所規約が決められました。英(グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国)、米、仏、ソの四カ国です。
東京裁判の方は、極東軍事裁判所条例となっていますが、原文は同じチャーター(charter)で、国連憲章も同じチャーターなんです。日本語でなぜこんな使い分けをしたのか、よくわかりません。
ロンドン協定は、前連合国を代表して、ヨーロッパ枢軸国の主要な戦争犯罪人を裁くために、国際軍事裁判所を設立することを決めて、直ちに実行に移されました。
国際軍事裁判所規約では、犯罪の内容をつぎの三つ
1 平和に対する罪
2 戦争犯罪
3 人道に反する罪に分類し、これらについては個人的責任が成立するとしています。
また、国家の元首でも、政府の責任者でも、免責されないこと、政府や上官の命令にしたがってやったということで、責任をまぬがれる理由にはならない、ときめているのです。”平和に対する罪”としては、侵略戦争を計画し、準備し、遂行したすべての参加者をふくめています。
これがいわゆるA級戦犯です。
”戦争犯罪”というのは、戦争の国際法規や慣例に違反した戦時中の犯罪のことで、東京産板書の条例の方では、”通例の戦争犯罪”となっていて、”通例の”ということばが加えらっれています。
時効不適用条約では、”平和に対する罪”が特に掲げられていませんが、戦争犯罪の中に”通例の戦争犯罪”と”平和に対する罪”とが一括してふくまれていることを、国連事務総長が説明しています。
”人道に反する罪”としては、平時と戦時とを問わず、民間人に対して行われた殺人その他の非人道的な迫害行為について、その実行者だけでなく指導者の責任を、共犯者とともにきびしく追及しています。
二 極東国際軍事裁判所条例
東京の裁判所条例(一九四六年一月九日)は、五ヶ月前のニュルンベルク裁判所規約(一九四五年八月八日)にならっていまして、内容はほとんどかわりません。目につくところは、”国家の元首”が抜けおちていること、”戦争犯罪”に”通例の”がつけ加えられていることくらいです。
しかし、前文を見ますと、東京の条例は連合国最高司令官マッカーサーの命令で作られ、ニュルンベルクの規約は四カ国のロンドン協定によって制定されています。
五月八日、ドイツは無条件降伏をしています。マッカーサーは、東京の条例制定の根拠として、一九四五年七月二六日のポツダム宣言と、同年九月二日に正式調印されたポツダム宣言受諾の日本の降伏文書とをあげています。その中で”吾等の捕虜に対し残虐行為を生ぜしめたる者を含むすべての戦争犯罪人に対しては、峻厳なる処罰を加えられるべし”というポツダム宣言の条文を引用しているんです。
ドイツと日本の場合は、無条件降伏とポツダム宣言受諾による降伏との違いがありました。
三 戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約
これらの国際軍事さいばんから二十数年たって成立した「戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約」の内容をみていただきますと、犯罪として(a)と(b)の二つに分け、ニュルンベルク規約の平和に対する罪と戦争犯罪を(a)に、また人道に反する罪を(b)に入れていますが、その他に、その後の二十数年間にニュルンベルク諸原則にもとづいて国連で決定されたコック債諸条約を、つけ加えています。
すなわち、(a)には、一九四九年のジュネーブ条約にある”重大な違法行為”を加えています。これは、”戦時における文民の保護に関するジュネーブ条約”(第四条約)の第一四七条に、殺人、拷問もしくは非人道的待遇(生物学的実験を含む)と規定されているものです。
条約第一条の(b)には、人道に反する罪として、アパルトヘイト(人種隔離)罪条約(一九七三年)とジェノサイド(集団殺害罪)条約(一九四八年)の内容が加えられています。
そして、これらの犯罪については、主犯も共犯も、既遂も未遂も、犯行を黙認した者も、全て責任を問われる、となっています。
右の犯罪は、犯行の時期にかかわりなく、時効は適用されないものとすることを、条約の第壱条で宣言しているのです。
条約の前文は、いろいろゴタゴタと読みづらいようですが、わかりやすく私なりに要約してみましょう。
ここには、この時効不適用条約を提案した由来と理由を、国連総会の諸決議をそれぞれ引用しながら、説明しているのです。
1 戦争犯罪人の引渡と処罰について
2 ニュルンベルク裁判の諸原則
3 アパルトヘイト罪
4 戦争と人道に反する罪には時効がないこと
(これは国連経済社会理事会の決議)などを示し
これらの犯罪が国際法上の重大犯罪であって、それを処罰することが、犯罪の再発防止のために、国債の平和と安全のために重要であること、また、これらの罪について、時効の国内法を適用して処罰を妨げてはならないという世界の世論を考慮して、本条約はつくられたのだ、と言っています。
この条約の目的は、戦争犯罪と人道に反する罪については時効がないという原則を確立し、さらにこの原則を国際的に普及適用することことが必要であるので、条約として制定することに合意したのだと述べています。
(つづく)
パンフレット 「なぜ、いま 時効不適用条約か」
「戦争犯罪と人道に反する罪に時効はない」 から